1989年3月刊行。吉本ばなな(よしもとばなな)さんの代表作の一つとして名高い『TUGUMI』。
優れた物語性を持つ小説・文芸書に贈られる文学賞「山本周五郎賞」を受賞。
1990年に映画化。
国内で平成初のミリオンセラーを記録し、1989年の年間ベストセラー1位にも輝くなど、吉本ばななの作品の中でも特に人気の高い作品の一つです。
僕は人から勧められて読んでみたのですが、これがなかなか面白い。
僕は本作が初の吉本ばなな作品だったのですが、ハッピーエンドを前提とした魅力(「感想」にて後述します)に気付かされました。
以下、ネタバレを含むあらすじ、および読んだ感想(書評)などを解説していきます。
目次
吉本ばなな『TUGUMI(つぐみ)』の登場人物
登場人物はそれほど多くない上、名前も特徴的なので、混乱することなく読み進められると思います。
白河まりあ(主人公)
この物語の語り手の女子大生。つぐみの1歳年上の従姉。
母の妹の嫁ぎ先である海沿いの山本旅館の離れに母と二人で住んでいたが、父とその妻の離婚が成立したのを機に、東京で親子3人で暮らす事に。
つぐみの気持ちが分かる、良き理解者。
山本つぐみ(ヒロイン)
山本旅館に嫁いだ、まりあの母の妹の娘。
タイトルの通り、この物語の中心人物。
生まれつき体が病弱で、入院などを繰り返してきた一方で、過保護に育てられてきたためとてもわがままで口が悪く、粗暴な態度をとる事もしばしば。
外面は良く、容姿端麗で頭も良いため、地元一の美人とすら言われる。
山本陽子(ヒロインの姉)
つぐみの2歳上の姉。女子大生。
性格はつぐみと違い温和で、涙もろい。ケーキ店でアルバイトしている。
武内恭一(リゾートホテル御曹司)
まりあと同い年の青年。
山本旅館から遠くない所に建設中の大型ホテルのオーナーの息子。
幼少期に大病を患った経緯があり、その頃の経験談につぐみは深く共感し、やがて恋仲となる。
権五郎の飼い主。
まりあの母
まりあの父の愛人。妹の嫁ぎ先にまりあとともに身を寄せて暮らしている。
まりあの父
まりあの母を一途に愛し、山本旅館に通い続ける。
まりあが19歳の時に離婚を成立させ、まりあと母と3人で東京に住み始める。
政子おばさん
まりあの母の妹。山本屋旅館に嫁いだ。陽子ちゃんとつぐみの母親。
正おじさん
山本屋旅館オーナーで、政子おばさんの夫(陽子ちゃんとつぐみの父)。ペンション経営の夢をかなえるため、山本旅館をたたむことにする。
ポチ
山本旅館のすぐ裏の田中さんの家で飼われている犬。
権五郎
恭一が飼っている犬。
吉本ばなな『TUGUMI(つぐみ)』のかんたんなあらすじ(ネタバレ有り)
まりあは、母の妹が嫁いだ、海沿いの山本屋旅館の離れに母と暮らしていた。
病弱ないとこ(母の妹の娘)のつぐみは、旅館の3階に住んでいた。
父が妻との離婚が成立した事で、まりあと母は東京に移り住む事に。
ある日、つぐみからの電話で旅館がたたまれることを知ったまりあは、旅館で最後の夏をすごす事に。
つぐみが「ただ者じゃなかった」と言う恭一との出会い、つぐみの告白、恭一の愛犬権五郎の誘拐。
最後の夏、さまざまな出来事が巻き起こる。
東京に帰ってしばらくして、つぐみの容態の悪化の報せが。
その数日後、つぐみから電話で、まりあへ手紙を書いたことを知らされる。
そこには、つぐみの率直な思いが記されていた。
吉本ばなな『TUGUMI(つぐみ)』の名言
つぐみには、人生への示唆に富んだ沢山の名言があります。
ここでは、その一部をかんたんに紹介。
「何かを得る時は、何かを失うように決まってるだろ」(春と山本家の姉妹 Kindle版位置No.254) by つぐみ
たびたび人をはっとさせるつぐみ。
そんなつぐみが、東京への引っ越しを控えて海から離れるのを寂しく思う主人公のあゆみに向かって言う言葉です。
今あるものを失う不安は、新しいものを手に入れる期待よりも大きくなりがち。
そうやって、いつまでも変われず、失ったものに執心していては、せっかくの新しいものの恩恵も、十分に活かす事ができません。
人生は常にトレードオフ。本当に大事なものはなにかを考えて、新たな幸せを抱きしめる心の準備をしたいですね。
「もし、みんなの心がかみ合わなくなって、そんな時がきても、そういう時のためにこそ、楽しい思い出はたくさんあった方がいいんだよ」(人生 位置No.416) by まりあの父
家族サービスを欠かさない父につぐみが「オーバーヒートしないでね」と声をかけた後の会話で、父が述べた言葉です。
絆って、楽しい思い出の総和でできている気がしますよね。
「そんなことばかり言ってると、何かが足りたい……って言いながら棺桶に入ることになるわよ」(人生 位置No.467) by まりあの母
山本屋旅館で働く母の生活を「幸せと言えるだろうか」と話す父に返した母の言葉です。
人生、完全に満たされる事なんてありませんよね。
目の前にある幸せに気付き、素直に受け止められるかどうか。
幸福を決めるのって、心の在り方。
吉本ばなな『TUGUMI(つぐみ)』映画のロケ地
小説では『TUGUMI』でしたが、映画では『つぐみ』というタイトルで公開されました。
ロケは、吉本ばななさんが小説の舞台としてイメージしていた西伊豆・松崎町で行われました。
ばななさんは本作のあとがきにて
「10年以上、同じ場所、同じ宿に通っている」
と語っていて、今回の作品は自分や家族の記憶をとどめておくために書いたものでもあるという事です。
吉本ばなな『TUGUMI(つぐみ)』の評価
7点(10点満点中)
吉本ばなな『TUGUMI(つぐみ)』の書評・感想
ここでは、僕の個人的な感想を記したいと思います。
前述の通り、僕は本作が初めて読了した吉本ばななさんの著書です。
清涼感と幻想感が両立した世界観と目に浮かぶ情景描写
吉本ばななさんの小説を読んでまっさきに感じたのが、清涼感と幻想感が両立した世界観と目に浮かぶ情景描写のすばらしさです。
本作では、一見島国日本のどこにでもありそうな海沿いの旅館を舞台に物語は展開していきます。
物語の中の場所ですから、そこへは行った事が無いのにもかかわらず、どこか既視感や懐かしさを感じさせる。
読者に容易にイメージをさせるその描写力は、著者自身の感受性の高さが垣間見えます。
そこに登場する、どこか現実離れしたつぐみ。
「欠落した(失った)家族(友人・恋人)と現実離れした人物(家族構成)」という構成は、代表作『キッチン』や『うたかた/サンクチュアリ』をはじめ、ばななさんの作品の多くで用いられています。この構成が、ほど良いファンタジー性を生み出していて、そのバランス感覚の秀逸さが、多くの読者から愛されている一因だと思います。
また、魅力的な登場人物も読者を楽しませてくれます。
まあ、だいたい美男美女というのもあるのですが(笑)、その言動からも、異性を惹きつける魅力があふれているんですよね。
読者が登場人物に恋してしまいそうになるのは、ばななさんが少女漫画をたくさん読んでいた人だからでしょうか。
(『うたかた/サンクチュアリ』のあとがきで、「少女漫画を読んでいろいろ勉強した」との記述があります)
どこか気持ちがきゅん(しゅっ)とするハッピーエンドである
吉本ばななさんは、人生についてネガティブ思考というか、否定的なのだそうです。
(『TUGUMI』巻末の解説より)
小説位は「絶対ハッピーエンドを書くと決めている」というばななさんの小説は、どこか安心して読み進む事ができます。
作品全体を包む「優しさ」のようなものは、こうしたばななさんの気持ちが表出したもののように思います。
吉本ばなな『TUGUMI(つぐみ)』が好きな人におすすめの作家と本
ばななさんの本はもちろんですが、あえて他の作家の本をおすすめしておきます。
ぜひ読んでみてください。
武者小路実篤
白樺派の思想代名詞的存在の武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)。
理想主義的な言動で知られる彼の作品は、やはり人間の美しさを感じられる作品となっています。
吉本ばななさんの本と似ているのは、清涼な読後感。
きっと好きになると思います。
僕のおすすめは以下の3冊です。
吉本ばなな『TUGUMI(つぐみ)』以外の作品もおすすめです
ばななさんの作品は、どれも読後感が気持ち良いです。
一度ハマると、ずっと読んでいたくなるでしょう。
Kindle版も文庫もどちらもあるので、ぜひ読んでみてください。