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【ネタバレ有】吉本ばなな『キッチン』あらすじ・名言と感想

1988年1月、刊行。吉本ばなな(よしもとばなな)処女作となる短編集『キッチン』。

短編集内の同名短編作品『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞。

1989年と1997年と二度にわたり映画化。

20か国以上で翻訳され、世界中で話題となった作品です。

 

僕は吉本ばなな作品は『TUGUMI』から読み始めたのですが、本作『キッチン』でどっぷり魅力にハマった感じがします。

以下、ネタバレを含むあらすじ、および読んだ感想(書評)などを解説していきます。

(なお、本記事内では短編集『キッチン』内の『キッチン』および『満月―—キッチン2』をまとめて『キッチン』とします)

 

吉本ばなな『キッチン』の登場人物

登場人物はそれほど多くない上、名前も特徴的なので、混乱することなく読み進められると思います。

 

桜井みかげ(主人公)

この物語の語り手の大学生。現在休学中。祖母と二人暮らし。

祖母が亡くなった事で、祖母の知人の雄一の家に引き取られる。

その後退学し、料理研究家のアシスタントとして働きはじめる。

 

田辺雄一(主人公の恋人的位置付け)

みかげと同じ大学に通う学生。みかげの祖母の行きつけの花屋でアルバイトをしていた。

みかげの祖母の死をきっかけにみかげを気にかけるようになる。

 

えり子さん

雄一の母(元父親。性転換)。本名は雄司。

妻をがんで失ったのち、性転換。ゲイバーを経営し、雄一を育ててきた。

 

宗之助

みかげの元恋人。

 

奥野(雄一に)

雄一の大学のクラスメイトの女子大生。

雄一に思いを寄せており、みかげの行動に不快感をあらわにする。

『満月―—キッチン2』で登場する。

 

栗ちゃん

みかげの職場の同僚。

『満月―—キッチン2』で登場する。

 

典ちゃん

みかげの職場の同僚。

『満月―—キッチン2』で登場する。

 

ちかちゃん

えり子さんが経営していたゲイバーの泣き虫従業員。男性だった頃は営業マンとして働いていた。

『満月―—キッチン2』で登場する。

 

吉本ばなな『キッチン』のかんたんなあらすじ(ネタバレ有り)

ここではかんたんにあらすじを記します。

 

『キッチン』

両親と祖父を早くに亡くし、祖母と暮らしてきたみかげは、キッチンが好き。

祖母の死をきっかけに、祖母の行きつけの花屋でアルバイトをしていた田辺雄一に声をかけられ、雄一宅での奇妙な居候生活が始まる。

みかげは田辺家のキッチン脇のソファで眠るようになり、オカマバーを経営する母のえり子と雄一との不思議な生活にも少しずつ慣れていく。

そのおかげもあってか、みかげは少しずつ祖母の死を受け入れられるようになっていった。

 

『満月―—キッチン2』

みかげは大学を辞め、一人暮らしをしつつ、有名な料理研究家の助手として働きはじめた。

そんな折、雄一から、えり子が殺害されたと連絡が。

急いで田辺家に駆けつけたみかげ。喪失感漂う雄一を見て、二人で同居生活に入る事に。

家族でも、恋人でもない2人の関係が続く中、えり子の死から立ち直れない雄一は突然いなくなった。

みかげはゲイバーの従業員のちかちゃんから雄一の居場所を聞き出し、雄一を探す。

 

吉本ばなな『キッチン』の名言

キッチンには、人生への示唆に富んだ沢山の名言があります。

ここでは、その一部をかんたんに紹介。

 

「本当にひとり立ちしたい人は、なにかを育てるといいのよね。子供とかさ、鉢植えとかね」(キッチン Kindle版位置No.586) by えり子さん

これはまさにそうだなあと納得です。

 

日本で育てていて、長期旅行で枯らしてしまったもみじの盆栽を思い出しました。

これはまだ自分がやっていない事、興味が無かった事だなと。

 

日本で働いている時、お客さんから頼りにされるのは好きだったんですけどね。

仕事以外では、なにかに頼りにされたり、期待をされたり。自分が「やらなくてはいけない事」が昔から苦手で。

なにかを育てるからには、自分は何があっても生き抜かなければならない。

 

僕は、育てる対象には、なるべく良い環境を作りたいと思ってしまいます。

気負ってしまう。それをしたいと思えない。

 

「”大人”にはならないようにする」事を心がけている僕からすると、これは経験からしても正しい言葉だなあと実感しています。

 

幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ(満月―—キッチン2 位置No.825) by みかげ

これは、海外で一人住んでいる僕からすると、けっこう身に染みて考えさせられる言葉でした。

なにかがうまくいっている時、なにかに熱中している時はそうならないのですが。

どこかうまくいかない時、ふとした時、自分が一人である事を意識してしまうと、すごく寂しい気分になる事があります。

そういう時ほど「なにも無くてもある繋がり」の尊さを感じる。

その代表格が家族だと。

 

「いやなことがめぐってくる率は決して、変わんない。自分では決められない。だから他の事はきっぱりと、むちゃくちゃ明るくしたほうがいい」(満月―—キッチン2 位置No.1176) by えり子さん

最近考えている事に重なるので共感した言葉でした。

「若い時の苦労は買ってでもしろ」という言葉があります。

僕もそれに似た想いでアフリカに渡ったわけですが、いまは少し考えが変わりました。

 

人生って、生きているだけでたくさんの困難が自然とやってきます。

(特に、単身海外に住んでいるから余計だと思いますが、)

だから、自分で選べる部分では、おもいっきり楽しもうと。

 

高尚な理想を掲げてそれにまい進するのは素敵ですが、それで自分が辛くなっていたら元も子もないなと。

たとえ自分が力を持て余していたとしても、それをもったいないと思わなくてもいいのかなと。

自分が一番楽しめるように生きる事が、社会にとってもいいのかなと思うようになりました。

 

吉本ばなな『キッチン』映画のロケ地

映画『キッチン』のロケは、北海道の函館で行われました。

路面電車のある風景っていいですよね。

 

吉本ばなな『キッチン』の評価

7.5点(10点満点中)

 

吉本ばなな『キッチン』の書評・感想

ここでは、僕の個人的な感想を記したいと思います。

 

「ありそうでなかなか無い」が生み出す楽しさ

僕が吉本ばななさんの本で最初に読んだのは『TUGUMIでした。

その際にまっさきに感じたのが、清涼感と幻想感が両立した世界観と目に浮かぶ情景描写のすばらしさでした。

本作でも、清涼感がただよう事は変わりませんが、「TUGUMI」よりは現実によっている内容。

 

小説は芸術であると同時に娯楽の一つですから、当たり前ですが面白さがなくてはいけません。

いくら”優れた”文章を記しても、つまらなければ仕方がないのです。

 

本項タイトルの通り、ばななさんの作品では「ありそうでなかなか無い」事が散りばめられていて、このバランスが面白さを引き出しています。

 

ケータイ以前、インターネット以前の物語

ケータイとインターネットは僕らの人生を大きく変えました。

本作は、ケータイ以前、インターネット以前の物語です。

30代以上の方は若かった頃を懐かしく感じるでしょうし、それ以下の方はある意味で新鮮な気持ちで読み進める事ができるでしょう。

31歳で高校で携帯電話を使い始めた僕の場合、懐かしい一方で、つぐみと同い年位の時にはすでにケータイもネットもあったため、

「こういう不便さのある時代の、ある意味で密で貴重な人の繋がりも味わってみたかった」

と少し羨ましい気持ちになります。

 

TUGUMIうたかた/サンクチュアリ』をはじめ、ばななさんの初期の作品は、どれもその時代のもの。

「”繋がらない”が生む繋がり」を想像しつつ、読んでみるとより楽しめるのではと思います。

 

吉本ばなな『キッチン』が好きな人におすすめの作家と本

ばななさんの本はもちろんですが、あえて他の作家の本をおすすめしておきます。

ぜひ読んでみてください。

 

武者小路実篤

白樺派の思想代名詞的存在の武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)。

理想主義的な言動で知られる彼の作品は、やはり人間の美しさを感じられる作品となっています。

吉本ばななさんの本と似ているのは、清涼な読後感

きっと好きになると思います。

僕のおすすめは以下の3冊です。

 

吉本ばなな『キッチン』以外の作品もおすすめです

ばななさんの作品は、どれも読後感が気持ち良いです。

一度ハマると、ずっと読んでいたくなるでしょう。

Kindle版も文庫もどちらもあるので、ぜひ読んでみてください。

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  • この記事を書いた人

セネガル山田(セネ山)

西アフリカのセネガルで宿「シェ山田」を運営しつつ、1日6時間・週5日のサーフィン生活満喫中|セネガルサーフツアー「セネサーフ」好評受付中|セネガル観光ラップで晋平太コラボ&TV出演も|著書『アフリカ旅行ガイドブック セネガル』|詳しいプロフィールはコチラ

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