(前回見逃した方へ 第2話はコチラ)
2006年4月。私は法政大学に入学しました。
校門から校舎へ向かう道の両脇には、先輩達がサークルへの新入生勧誘のために並んでビラを配っていました。
テニス、馬術、フットサル、落語、お笑い…
気付けば手の上はビラでいっぱいです。
「色んなサークルがあるんだな。」
そう思いながら校門をくぐり中に入った瞬間、なんと衝撃の光景が。
両脇に列をなしてビラ配りをする人達の先にはなんと…
キャンパスのど真ん中で、寝袋で寝ている女性の姿が。
頭にガツーンと(死語?)ショックを受け、思わずかけよる私を気にも留めない寝袋女性。よく見るとエキゾチックな雰囲気漂う美人でした。
(それもそのはず、後から知りましたが、その先輩はファッション雑誌のモデルなども行っていました。しかも法大生ではなく他校の美大生)
彼女の後ろにあった机の上には、
「野宿同好会」
と書かれた冊子が置いてありました。この出会いから、私の人生は劇的に変わる事になりました。
野宿同好会とは?
「常識の打破」を理念に掲げて活動する表現系サークル。通称「野宿」。
20年以上の歴史を持つ。
毎週一回会議が行われ、企画が決定。
以下のルールで実行される。
<主なルール>
・会議で自己の興味関心を企画として表現しプレゼン
・会員の過半数が賛同した企画を採用し、日時と集合場所を決めて実施する
・参加の出欠は取らない(会員同士で参加可否を話す事は禁止)
・現地集合・現地解散
・企画実施後の会議で、活動報告を行う(その際、はじめて参加者が明らかになる)
・場合によっては一人合宿、また誰も参加しない事もある
・宿泊手段は原則野宿(野宿は手段であり目的ではないため、一部例外有)
上述のルールにより、
「●●が行くから行こう」
といった事を防ぎ、純粋に企画への興味のみで参加を決定する事ができる。
<恒例企画>
・年末レース
(過去の実施例)
「のべ数万人も走破者がいるアイアンマンレースなんて大した事がない」という事で、すべてをアイアンマンレースの2倍以上の距離で実施する「プラチナマンレース」
じゃんけんのグリコの遊びを駅単位で歩いて行う「大グリコレース」
竹馬で40kmほどの道のりをともにして友好を深める「竹馬の友レース」
・ヒッチハイクレース(24時間で東京から直線距離でどこまで遠くに行けるかを競う)
・樹海合宿(その名の通り。自殺者に遭遇する事もある。)
・海外合宿(海外でも現地集合。アジア中心だが、過去エクアドルでの実施も。)
・人間筆(人間を筆に見立てて、髪の毛に墨汁をつけて文字を書く伝統行事。筆役一人と持ち手三人の計四人で実施。筆役はもれなく首を痛めるという。)
などがある。
OB・OGは市議会議員、本の著者、農家、ニート、ライター、公務員ほか、普通の会社員などがいる。
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まず驚いたのが、このサークルの先輩方。
・浪人後、大学を複数年留年している人
・シルクロードを自転車で渡った人
・いつも校内で酒を飲んでいる人
・他校の学生なのにいつも法政にいる人
・いつもゲタ履いてる人
・日本2年目なのに日本語が完璧すぎる留学生
こんな人たちで溢れていました。
(ついでに書いておくと、僕の同期・後輩はこんな感じでした。ちなみにこの中に僕もいます。笑
良かったら予想してみてください。4話目で正解を発表します)
・会社を辞めて野宿に入ってきた30代女性
・親が無職ニートで本人は元パチプロの人
・部室を全焼させて中学校(私立)を退学になった人
・オートロック付き賃貸マンションを借りているのに年間100泊以上野宿している人
・IQ70台の人
・ママチャリ320km、徒歩120km、冬の琵琶湖水泳を続けて行った人
・家に調味料がポン酢しかない人
・学費が払えなくなりそうになり競馬で大穴を当てて学費を払った人
etc...
野宿の机の上(サークルごとに割り振られたスペース)には、いつも日本酒の一升瓶が置いてありました。
当時の法政大学は、学内での飲酒がOKで、夜な夜な校内で飲み会をする学生も多かったのですが、野宿の人達は昼というか朝から飲んでいたのです。そして校内でよく寝袋に入って昼寝をしていました。
大学に入るまで、僕は真面目一筋で学校以外の世界を知らず、無断外泊もした事がなく、小・中・高と一つの駅周辺で過ごしたため、恥ずかしながら電車の乗り方もよくわかっていませんでした。
そんな当時の僕の常識からは完全に外れた人で溢れていました。私は、そんな先輩との出会いに大きく刺激を受けました。
「失敗(停滞)って怖くないんだ!」
「ダメ人間でもいいんだ!」
「人生ってこんなに自由に生きていいんだ!」
という事を一気に学びました。私の人生が変わった瞬間でした。
(のちに僕は、野宿同好会で会長を務める事になります)
そして迎えた秋。初めての学祭。
法政の学祭では、校内の壁に学祭の出し物を宣伝するためのビラを貼ります。
そのビラ貼りのために各サークルは徹夜して場所取りをします。
朝、「ビラ貼り開始」の合図があると、福男選びのレースのように皆が一斉に校舎内へ駆け出し、押し合いへし合いしながらビラを貼りまくります。
そこかしこでは、やれ服にボンドが付いただの、ぶつかるなだの、俺が先にビラを貼っただのでくだらないケンカが勃発するという、大変民度の低く楽しい行事です。
基本的にすべてのサークルは、元のビラを作りそれをコピーしているのですが、野宿は違いました。
なんと、1枚1枚、手書きです。しかもその数A3で1,000枚以上。
自分で言うのもなんですが、野宿のビラは法政の名物です。
新入生歓迎、学祭など、法政では事あるごとにビラ張りが許可されるのですが、そのたびに手書きで1,000枚単位でビラを書くのです。
学祭では、野宿は1年の活動をまとめた「機関誌(注1)の発行・販売」、ならびに「活動の写真展示」、「鍋(注2)の販売」、そして人間筆を行います。
(注1)活動を写真入りで紹介。数百ページで100円。くだらないコラム多数。
(注2)ウサギ鍋、ダチョウ鍋、シャア専用鍋など。シャア専用鍋では○ンプラを○○ていました。
ですが野宿はビラでは基本宣伝はせず、一言ネタを書いていました。たとえば、
今年の野宿のビラでこれが一番好き pic.twitter.com/DhREuEyyYt
— 大倉直樹 (@Oakland0111) April 12, 2015
たけやぶやいた
ガンジージャンプ
ちび○○○ちゃん(ビラは伏字ではありませんでしたが、ここでは伏せます)
などなど…。思想・宗教・差別・時事・下ネタなどを書いていくのですが、そのまま貼ると大問題になるものが多いので、会全体で1枚1枚検閲を行っていました。
みんなギリギリを攻めるためそこで結構ボツになり、また書く枚数が増えるという。ネタを考えるがあまり、30分かかって10枚も進まない人も。
結局1週間くらいかけてくだらない事をひたすら考え続けます。何の地獄だという。笑 同時にとても楽しい時間でもありました。
初めて見た人間筆
前述の通り、野宿では人間筆をやります。
はじめて見た時の事は…と野宿の事をいちいち記していたらいつまでたってもこの第3回が終わらなそうですので、ここでは写真だけ載せます。
引用元:http://tyamauch.exblog.jp/16776754/
写真は後輩です。
僕もやりました。
年末レース
野宿では毎年、年の瀬に野宿王を決める「年末レース」が行われています。
僕が1年生の時のレースは「循環レース」。
これは、「山手線の線路の外側を3日半ひたすら歩き続ける」というレースでした。
これも色々ドラマがあったのですが、書くと長いので結果だけ。
僕が優勝しました。6周(240km)+αで計250km位歩きました。
この優勝で、ようやく野宿の先輩方に野宿民として認められました。
元々「枕が変わると寝れない」体質だった僕ですが、この頃からようやく野宿にも慣れ始め、一人で国内を野宿しながら旅するようになりました。
(つづく)